アメリカ臨床留学

アメリカ臨床留学
(メイヨークリニック)について

アメリカ、ミネソタ州ロチェスター市にあるメイヨークリニック脳神経外科に2003年から2年間、クリニカルフェローとして臨床留学しました。ここでは、私が行ったメイヨークリニックでのclinical fellowとしてのトレーニングについて紹介します。日本とアメリカの研修の違い、さらにメイヨークリニックでの経験がその後の私の脳神経外科医人生にどのような影響を与えたのかについても触れてまいります。

 

  • 1998年、California大学Riverside校での交換留学生活、そしてUSMELE Step1 合格  
  • 1999年、東北大学医学部卒業、そしてUSMLE Step2合格
  • 2001年 Step 2CSに合格、アメリカ医師免許( ECFMG certificate) 取得

アメリカでの臨床検修を行うためには試験に合格し医師免許を取得する必要があります。USMLEと呼ばれるアメリカ医師国家試験はStep1, Step2の2つの筆記試験、そしてstep 2 Clinical Skills 、模擬患者を診察する実技試験から構成されます。その全てに合格するとはれて、 ECFMG certificateが付与され、アメリカでの臨床研修が可能となります。

 

私のアメリカ臨床留学への道は、大学6年時 カリフォルニア大学へ1年間の交換留学を行った際、はじまりました。アメリカでの臨床研修を行いたいとの想いから交換流学中にStep1を、帰国して卒業前にStep2を受験し合格しました。その後、日本で医師として働きながら、2001年に実技試験に合格し、アメリカ医師国家試験に合格しました。

2003年から2年間、Mayo clinic での2年間の研修を行う機会を幸運にも得ることができました。

Mayo clinicには当時10人の脳神経外科指導医と17人のレジデント(研修医)が所属していました。

写真の中央が当時のchairのPiepgras 先生、そしてその周りはすべてレジデントです。7つの手術室を毎日使用し、実に年間3400件もの脳神経外科手術を行っていました。

  • 朝回診 (5:00から)
  • カンファランス (6:30から)
    - 月曜日:脳血管障害
    - 火曜日:脊椎脊髄
    - 水曜日: てんかん
    - 木曜日: 抄読会
    - 金曜日: 神経病理
    - 土曜日: Grand Rounds
  • 手術 (毎日7:30-17:00,最大3件) 
  • 夕回診 (17:00-18:00)

アメリカ脳神経外科レジデントの1日のスケジュールです。

朝5時から担当患者を回診し、指導医とのうちあわせを終え、朝のカンファランスに参加します。その後手術室にむかい、自分の担当患者さんの手術を行います。レジデントは毎日手術を行うのですが、アメリカの病院ではそれを可能にする様々な工夫がなされていました。

 

たとえば、朝5時に回診する際、オーダーした患者の採血結果がすでに出ていました。つまり担当患者さんの状態把握と判断を朝6時までにすませることができます。また、日中の病棟には医師の代わりに病棟業務を行うPhysical Assistant、患者の呼吸状態を管理するスタッフがいて、脳神経外科医は手術業務を主にこなします。

 

レジデントは年間300件、7年間の研修期間中を通じて約2000件の手術を経験します。


私がアメリカ留学中の2年間で経験した手術内容と件数です。私の日本における研修初期の経験手術件数を比較のために提示しています。


日本とアメリカにおける脳神経外科臨床の違いについて私見

アメリカの臨床研修では1日平均2件と多くの手術を経験することができました。ただ、アメリカでは、次から次へと担当手術が割り当てられるため、自分の手術患者の術前及び術後診察にかけられる時間は非常に限られたものでした。

特に術前、私自身が神経所見を取る時間はほとんどなく、時に、患者に挨拶もできず、すでに麻酔がかかっている状態で初対面ということもありました。一例一例の重みが日本での臨床にくらべるとやや軽い印象でした。しかし、症例を多く積み重ねることで、手術技術を習得していく修行がアメリカ式と感じました。

 

また、 脳神経外科医のはたす役割も異なります。例えば、くも膜下出血の患者さんが来院した際、初期対応、診断、治療方針の決定と遂行、そして術後管理。その全てを行うのは日本では当然ながら、脳神経外科医です。

 

しかし、アメリカで脳神経外科医が参加するのは、誤解をおそれずにいうと、手術治療のみです。自分の手術した患者の術後管理は、脳卒中を専門に診る神経内科医師にまかせます。包括的に疾患の診療にたずさわる日本の脳神経外科医からすると違和感を覚えるものでした。しかし、脳神経外科医には、翌日、また次の症例があり、それをきっちりとこなすことが求められました。

 

アメリカでの臨床研修は手術に特化したもので、アメリカで求められる脳神経外科医像にマッチしています。一方、日本式の一例一例を大切にする教育は、手術のみならず、診断、治療、術後管理といった臨床を包括的に行う診療スタイルに適しています。

 

現在は、良性腫瘍、三叉神経痛や片側顔面痙攣、脊髄疾患患者さんの手術に携わっていますが、神経所見はもとより、その患者さんの生活環境や家族構成、そして患者さんとその家族の期待するものを十分に共有した上で手術治療を、必要に応じて実践しています。言葉のうまく通じなかったアメリカにおいて、病棟担当医として患者さんに向き合った経験は時につらく、英語力とともに人間力が試される現場でした。ただし、その経験から、脳神経外科診療における信頼関係構築の重要性に気づくことができました。